1997年に結成し、2003年を持って解散したCymbalsのベストアルバム。Cymbalsは、私が今お気に入りの土岐麻子さんが昔ヴォーカルを担当していたバンドで、彼女の非常に初々しさが非常に印象的である。解散時のメンバーは、彼女の他に沖井礼二 (ギター、ベース)と矢野博康(ドラムス)の3名。NONA REEVESの奥田健介もサポートメンバーとして活躍していた。
もともとは土岐麻子から遡ってCymbalsに行き着いているのだが、ここでのバンドの方向性こそが、その後の彼女のソロ活動に大きな影響を及ぼしていると改めて感じた。
Cymbalsのことは全く知らなかったと思っていたのだが、最近確認したYoutubeなんかで見かけるヴィデオなんかを見ると、本作の2曲目に入っている「午前8時の脱走計画」なんかは、このPVをつかったCMを見た記憶が蘇ってきた。何かかわいらしくて、セピア色の外国人の少年が出演したり、モータウンっぽい女性コーラスグループが登場したりと、随分アメリカを意識したおしゃれなPVだなと思ったものだ。かれこれ10年近く前の話だとは信じられないほど、少しずつ鮮明に思い出されてきた。
ここに収録されている21曲を改めて通して聞いてみるとは、彼らがメジャーデビューしてからの作品が中心となっているが、ポスト渋谷系と呼ばれるように、独特のスマートなポップさが際立つ作品が凝縮されていると思う。今聞いてもかなりおしゃれなポップだと言えるが、今回認識したのは、高い演奏能力である。
多くのバンドが、バンドのメンバーの個性にバンドの個性を頼っていた感じのある中、彼らはバンドとしての実力をしっかり兼ね備えていたと言える。3人のバンドであり(結成時は4名であったが)、バンドとしてのパワーが大きくないことは間違いないが、それをいろいろなサポートメンバーがしっかりとカバーしていたと思う。
曲調についても、ちょっとパンクなバンドタイプの曲が多い中、後半になると土岐麻子のヴォーカルを前面に出したジャズっぽい作品も登場してくる。これは、土岐麻子が解散後、父である土岐英史との共同作業で発表したジャズヴォーカルアルバムの布石だと考えられて興味深い。
本作はとりあえずCymbalsの活動を総括すると言う面では非常に入りやすく、また満足できる作品である。もっとも以前からのコアなファンは、こういう作品では納得できず、オリジナルアルバムやDVD作品の方が楽しみなのだろう、ということはよく分かる。iTunes Storeでもインディーズ時代の作品などが発売されているので、これに興味をもったら聴き進んではいかがだろうか。